メイクの起源  ―実用的観点

クレオパトラ ('63) エリザベステイラー

映画「クレオパトラ」(1963) エリザベステイラー

人類史上、メイク顔がそのままパブリックイメージで定着した最初の有名人はクレオパトラだろう。
同じ女性権力者、日本史でおなじみの卑弥呼にはメイク顔のイメージはない。卑弥呼がメイクをしていたかは魏志倭人伝に譲るとして、クレオパトラがメイクをしていた史料はいくらでもあるらしい。

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古代エジプトの文物を見ると、当時は男女問わず奴隷から女王まですべての人が黒と緑の粉を目の周りに厚く塗っていたことがわかる。「人々は毎日このような化粧をしていた」と研究の共著者クリスチャン・アマトーレ氏は話す。
古代エジプトの写本によると、この目の化粧には呪術的な力があり、この化粧をすればホルス神とラー神が色々な病気から守ってくれると信じられていたという。

ナショナルジオグラフィック日本版
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2168
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メイクは権力者の独占ツールかと思いきや、当時は奴隷から貴族までアイシャドウを塗っていたらしい。感染病の予防という極めて実用的な理由なのが面白い。
実用性の観点で言えば、日本のお歯黒も木から抽出した樹液(主にタンニン)に虫歯予防の効果があることを経験的に知っていたそうだ。
現代メイクにこういった実用性の観点はない。

メイク一歩手前の工程「スキンケア」をメイクの範疇に入れるなら、これは実用的行為といえる。保湿、UVカット、ニキビケアなど現代スキンケアはまさしく実用的行為そのもの。

エジプトアイメイクの成分「コール」や日本のお歯黒成分「タンニン」は科学的に抗菌作用があることが後にわかり、予防効果が実証されている。科学が存在しない古代、中世においても人類の経験則がいかに正しいかがわかる。その一方で、これだけ科学が発達しているにも関わらず現代スキンケアのほとんどは実用性に疑義を感じてしまう。


というのも、そもそも肌表面に何かを塗ったり貼ったりしたところで、肌の改善効果を期待することは生理学上できないとされているからだ。できないが言い過ぎなら「限定的」としておこう。

肌の性能とは外部刺激を遮断することにある。いわゆる「水を弾くような弾力ある肌」というもの。
肌は4つの層から構成されていて、外部刺激が有効なのは一番外側の角質層と呼ばれる部分だけで、それ以上内部に侵入できない。いや、むしろさせないのが正常な肌の機能だ。外部から何かを塗ったり貼ったりする場合、その効果は角質にしか届かない。
ところが市販されているスキンケア用品は角質層よりさらに内部の問題である美白効果、シミ消しを謳うものが大半を占める。

美白やシミ消しは角質層よりもさらに奥のメラニンを除去しなければいけない。肌に何かを塗って美白になったりシミが消えてしまうということは何かしらの有効成分が肌内部に浸透したことになって、肌のバリア機能が正常に働いていないということになる。

この事実は皮膚科医でなくても、メイク専門学校ですら一番最初の授業で教える。
心ある皮膚科医たちはこの大いなる矛盾を昔から指摘している。

ハトムギ浸透乳液

ハトムギ「浸透」乳液

「美白」や「保湿」をするためには肌内部にその有効成分を浸透させないといけない。
肌のバリア機能の向こう側に「浸透」させないと効果は現れない。
スキンケアの広告にやたらと「浸透」の2文字が使われるのはそのせいだろう。
浸透するということは肌のバリア機能が壊れているということなのに。
化粧品が肌に浸透するようなら、海水浴をしたら間違いなく塩水が肌に浸透してしまう。
早く病院に行った方がいい。それは肌の病気だ。

都合の良い成分だけ肌に浸透するはずがない。

カネボウ ブランシール スペリア ホワイトニングコンディショナー
カネボウ ブランシール スペリア ホワイトニングコンディショナー
2013年自主回収により廃盤

2013年に美白効果を謳ったカネボウ化粧品から肌の白斑被害(肌が白く色抜けしてしまう状態)が起こり大規模な訴訟事件になった。カネボウは多額の広告費をマスコミに撒いていたので大きく報道されることはなかったが、私たちメイク界隈の人間にはかなり衝撃的な事件だった。

この美白化粧品は非常に評判が良く美白効果がてきめんだったそうだ。そのからくりは肌のバリア機能を壊す強烈な乳化剤にある。この乳化剤で一旦肌表面を壊し、漂白成分を内部に浸透させる。

肌を壊して、漂白する。

白人に憧れたマイケルジャクソンが晩年に手を出した手術のようだ。

肌のバリア機能が壊れれば漂白成分はすぐに浸透する。
そして壊れているが故に成分を肌が保持できず、すぐ抜け落ちる。
塗った瞬間は綺麗になるから病みつきになり、そして落ちては塗り落ちては塗りを繰り返す。まるで麻薬中毒だ。

気付けば肌はボロボロ、漂白成分が定着した部分だけまだらに白浮きするという目も当てられない被害が生まれた。

白斑被害

カネボウ化粧品白斑被害事件で和解
詳細はこちらのページから

大正時代の鉛中毒も化粧ノリの良さという実用性の代償として鉛中毒者が蔓延してしまった。
実用性を求めて肌を壊すという本末転倒は歴史上頻繁に起こる。
企業が利益主義に走った瞬間、カネボウ事件の類が起こることは想像に難くない。

「美魔女」という言葉が一時期もてはやされた。
今でも妙齢の美人を指してたまに使われる。
この言葉が中年女性に対する脅し文句に聞こえるのは私だけだろうか。
年を取っても綺麗であり続けなければならない、
その強迫観念がこういった商品の購買層を生み、企業側の暴走に繋がった。

多少乾燥したら顔や唇にワセリンを塗る、
日焼けが気になるなら帽子や日傘を使う、
(ちなみに日焼け止め製品全般にも懐疑的な立場)
フェイスマッサージで血行を良くする、
スキンケアってこの程度のものだろう。

メイクにもファンデーションを塗る手前で、スキンケアという様々なものを塗る工程が存在するが、これはファンデーションのノリをよくするための予備動作でしかなく肌を改善させるものではない。肌の治療・改善は皮膚科に任せた方がいい。

結論として
現代メイクに実用性は必要ない。

メイクとは
顔の悪い部分を隠して
良い部分を強調していく作業ではないだろうか。



ここまで否定しておいて恐縮だが、唯一メイクの実用性を感じさせる一筋の光明を書いておきたい。

以前「メイクセラピー」なるものに通っている女性と話をしたことがある。

そもそもそんな類のセラピーがあることに驚きだったが、さらに「人生が変わった」とまで彼女に言わしめたことに輪をかけて驚いた。
人間関係や人生への不安という青年期特有の陰鬱のせいで、彼女は自分の外見にすら嫌悪感を抱くまでに至ってしまった。
そんな時、藁をも掴む気持ちで出会ったメイクセラピー。
そこでメイクをされ、鏡に映った自分を見て生まれ変わるような気持ちになったそうなのだ。
セラピストにメイクをされると不思議と力が湧いてくる。そんな体験を語ってくれた

この仕事をしていながら全く不意を突かれてしまい、メイクにそんな力があるのかと衝撃を受けたことを今でも忘れられない。

現代メイクの実用性として「メンタルケア」の要素を考えることは有効なのかもしれない。

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